あたたかな腕(2)  



「また明日ね」
その友梨とは、あたしが大きい本屋に用があったのと
友梨は家の近くで用があるのとで本屋前で別れた。
進路を決めるにあたって おばさんから聞いたのだけど、 一応本屋で調べようと思ったのだ。
とは言っても買ったのは漫画本だけ。調べるなんて立ち読みで大丈夫だもん。

「あとは明日、先生にも聞いて」
渋谷の街中で帰途に着く。 少しは遠慮しろって言いたくなっちゃうくらい。
どこから溢れるんだか分からない人ごみ。
歩きにくいったら。

立ち止まる、ハチ公前の交差点。
車やバスや宣伝カーがすり鉢状のスクランブル交差点を行き来する。
前へ、前へ、前へと色んな方向から方向に。
様々な過去から様々な未来へ。
あたしも前へと進む。頑張って。
思い描ける、最良の明日へ。

車の方の信号機が赤になるとみんなが歩き出して。
一瞬、目を疑ったのかと思った。
周りみんながベールを被ったような雑音となった。視界となった。
道路に出る直前であたしの足は止まった。
青である時は短い筈なのに、時間なんか感じない。











………千昭。






千 昭。






頭真っ白になる。
何も浮かばない。
かける言葉も発する台詞もない。

いつになく、ゆったりと歩く千昭の足取り。
それは全てコマ送りのよう。
千昭はあたしを確認するとシニカルに笑って。



挨拶するように手をあげた。




千昭の背後を車が走り出す。
無言であたしと千昭は見つめあった。
「よう」
千昭の開口はまるで昨日今日別れたようだった。
どうして? 何があったの? もう来ないんじゃなかったの?
そんな疑問すら、驚きすぎて浮かばない。
「今日は渋谷なんか来てどうしたんだ? 珍しいな」
いつもの千昭。
高校で会って、3人でダベって野球して、たまに買い食いして。
その頃と変わらない、普段の千昭。
「いーつまで口ポカンと開けたままなんだよ、オマエ」
千昭は声をあげて吹きだした。
それでようやく気付いたあたし。
「バカッツラしてんじゃねーよ」
「ひっどい!」
「いつまでも驚いてっからだろ」
からかうように笑う千昭にあたしは眉を寄せて怒った。

そうして、また無。
車が止まってまた人が歩き出す。

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