あたたかな腕  



いつも功介や千昭と居る訳じゃない。
魔女おばさんとお出かけしたり友梨とショッピングしたり。
……まぁ。頻度は少ない。
今日は、友梨が渋谷で欲しい服があると言うので付き合った。
渋谷は人ごみ多いから余り好きじゃないんだけど、たまになら構わない。
「千昭君、元気かな?」
人の多い109の中の店内で、友梨が何気なく問いかけてくる。
「元気なんじゃない? あいつの事だもん」
「ホント急だったよね。ちゃんとお別れした?」
「したよ〜」
「そっか」
友梨は一つの服を手に取ってジィと見つめていた。
その様子はどこか思い込んでるような?
「友梨、もしかしてお別れ言いたかったの?」
「ううん、違う違う!」
はっと気付いたように友梨は首を振って。
「ただ その服買うか迷ってただけ?」
「そう」
友梨はエヘヘヘと照れ笑いを浮かべた。
理由も訳無い。バーゲンで安くなってる訳じゃなく、高い値段のままのカットソー。
「服は迷うんだよねぇ。可愛いって買っても下の服と合わなかったり」
「そうそう」
首を振ってあたしも頷く。
「真琴はパッと決めたら迷わないんだと思ってた」
「あたしだって迷うよ。迷わなくても美幸から『ダメー』ってクレーム来たりするしさぁ」
「真琴らしい。……うーん、やっぱり買おうっと!」
服を見ながらの会話はとりとめもない。
友梨はカットソーのハンガーを自分の左腕にかけた。
「……ちょっと、落ち込んでるみたいだから」
買おうと選り分けた値札見比べている。
友梨の視線はそのまま大人しく下を向いて。
「真琴、落ち込んでるじゃん。だから少し心配したんだよ?」
「……ごめん」
話の内容が内容だから答えるあたしの声のテンションは低い。
「やっぱりアレだけ一緒に居るとね、狂っちゃったみたい」
「狂う?」
「うん。このあたしが、センチメンタルだよ? 狂う以外のなにものでもないよ」
あたし自ら少し大げさ気味にケラケラ笑った。
おばさんのところで吐いたことで少し浮上して、 センチメンタルな心情の上に一枚感情を乗せたいつものあたし。
それが例え薄皮だろうと、長く続けば本物になるでしょ?
今は頑張るとき。堪えて我慢してふんばって、おばさんが『慰めたかいがあった』と思うように。
「今は大丈夫なんだね。辛くなったら聞くからね?」
友梨はいつものように大人しく笑っている。
「ありがと」
「パジャマパーティでもケーキのドカ食いでも何でも付き合うからね?」
「それイイなぁ!ケーキのドカ食い!」
「ちょっと待つだろうけどバイキング行ってみる?」
「うん、行こうよ!」
友梨はそのお店と別の店で服を何着か購入し、 あたしはまた別の店でシンプルな上着を買った。
そしてケーキバイキングに寄って至福になり。
どうやらそれで友梨を安心させることが出来たみたいだった。
ケーキと聞くだけで嬉しくなるあたしは単純。
たとえ薄皮一枚でも、隠した気分が上昇したのは間違いない。

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