待ち合わせ
高い高い空には真っ白な雲が大きく存在して、嫌でも夏って感じさせてくれる。
何匹も何匹も蝉が鳴いて、その声は輪唱のようにこだまする。
「行ってきますっ!」
あたしは元気よく家を出た。
今日は、千昭と夜祭に行く。
デート…っていっていいのかな?
そんな雰囲気は、あたしたちにはないんだけど。
時間は午後、夕方。
待ち合わせ時間に間に合わないよ…!
でも急げない。
浴衣に下駄だから、走れない。馴れてないんだもん。
それでも早足でカラコロと鳴らしながら坂道を降りていく。
待ち合わせは、最寄の駅。
夜祭って言ったって地元の祭じゃないから、電車で移動するんだ。
人ごみで混んでいる駅前。
今、浴衣が流行ってるからか、あたしと同じなのか、ところどころに浴衣姿が見受けられる。
千昭の姿はすぐに分かった。
切符売り場の脇の壁に、ぞんざいに寄りかかって居た。
「千昭ー!!」
あたしは息を切らせて駆け寄って。
「おっせぇ!暑いんだから、待たせんな」
ちょっとばかりムッとした様子で、扇子をあおいでいる。
そんな千昭の姿も、浴衣。
「……そんなオトコモノもあるんだ?」
オトコモノって普通、黒とか紺じゃない?
千昭は、白い浴衣に黒い帯。
男の浴衣姿ってだけで目立つのに、白い浴衣。
しかも、千昭は1人で居ても存在感が有っていつも目立ってる。
千昭は、からかうようにニヤニヤ笑って。
「惚れんなよ??」
「…っ、バカ!」
はっとして、つい顔が赤くなった。
上から下までシゲシゲと見てた事に今頃気付いた。
「んだよ?」
「バカ千昭っ」
「バカ真琴」
凝視してた自分が決まり悪く目線を送ってしまうあたしに比べ、千昭は余裕ある笑み。
「…なんかずるい」
俯いて、ボソッと漏らした。
「あ?」
「ず・る・い!」
真正面に千昭を見て。
「何が」
千昭は、訳分からない様子で扇子を仰いでいる。
あたしは最初少し目線を外し言い淀んで、でも視線をキッと戻した。
「千昭、慌てなさすぎ! しかも、何か格好いいし!!」
言うと千昭は一瞬、キョトンとしてから勢いよく吹き出した。
「そりゃー良かった良かった」
千昭は、体まで折り曲げて笑ってる。
「笑わないでよ!」
「だってなぁー…!腹イテー」
「失礼なっ」
「褒めるにも他の言い方があんだろうが。
ちょっと赤らめて俯き加減で『格好いいよ』とか」
乙女ちっくな動作付きで千昭が例を見せた。
「千昭、気持ち悪いー!」
思わず笑って。
「俺もやってて気持ちわりー」
「ていうか、あたしの柄じゃないの、分かるでしょ?!」
「…ま、アレが真琴らしいっつーか」
千昭はあたしの頭に手を置いた。
「可愛いっつーか」
ごくごく、自然な動作。それは流れるような。
「かっ、かっ…!?」
今までに言われた事のない言葉だよ。
カァァァッと顔が赤くなっていくのが自分でも分かる。
「猿みてぇ」
チシャ猫のように千昭は笑って頭から手を離した。
「うううう、うるさい」
目線を合わせ辛くてクルッと背中を向けた。
なんで、千昭は余裕があるんだろう。
今日ぐらいじゃない?
あれ? いつも?
でも、あたし、こんなに翻弄された事なんてないよ。
「…なんで、そんな余裕なの」
ムゥゥッとして呟いた。
「そりゃ、俺が大人だってショウコだろー?」
「同い年じゃん!どう見ても精神年齢も一緒だよ!」
「ぜってーお前のが下だ」
「お・ん・な・じ!」
「てゆーか、オマエ。遅刻してきた侘びはねぇのかよ?」
またもや、はっとした。またクルッと千昭の方を見て。
「そーいや言ってなかったね。ゴメン。待たせたね」
「軽いんじゃねぇ?オイ」
「文句あんの? あたしたちの仲じゃない」
「……ま、そうだな」
千昭は少し間を置いた。何かしら、考えた様子だった。
どうしたんだろ?
首を傾げてそう考えていると、千昭はあたしの手を取って歩き出した。
「ほら、行くぞ」
「あ、ちょっと、切符!」
「買っといた。後で返せ」
一歩後ろを歩くあたしに、前を向いたまま切符を渡してくれる。
「ありがと」
さぁ、夜祭だ!
続き→
久しぶりの時かけSSです…。
なりメはしてるものの、掛け合いとなるとちょっと印象が違うかもしれません。
本当に、久しぶりに書いたので(^^;
白いオトコモノの浴衣というのは、本当に存在します。
因みに、続きます。
そのうちに、このSSも直すかもしれません。
千昭萌えじゃなくて真琴萌えを観点に書いてみました。
どうでしょうか???真琴萌えになってます?
(’7.7.2)