通学路
「お待ちかねの修学旅行のプランだぞ〜〜」
低音響かせて担任が荒っぽく戸を開けた。
2日に分けて行われる実力テストの最後の日、ウチの高校では修学旅行の準備に入る。
「ドコに行くんだろうな? なぁ、真琴」
「さぁねーーーー」
あたしは机と仲良くなった。睡眠時間が少なかったから眠い。
あの後。
あたしの涙はなんだったのか、千昭はまたこっちに来ていた。
嬉しいような、怒りがこみ上げてくるような。
何だか拍子抜け。
「こぉら、紺野!」
「アイタッ!」
先生の叱責と頭への衝撃。
「寝るなら帰ってからにしろ」
「はぁい。スイマセン」
あたしは決まり悪く、出席簿で叩かれた頭を撫でた。
「以上、解散!」
「へ!?」
目を丸くするあたしと同時に、みんなが笑いながら散開する。
「え? 何!?」
何が起きたのか分からなくて、あたしは千昭と功介の方を向いた。
千昭も功介も堪えようともせずに思いっきり笑ってる。
「いつの間に終わったの!?」
「さっき。お前、ずっと寝てんだもん。先生が何言ってもグッスリ。凄かったよな?」
「ああ、うるさいのにも関わらず爆睡してたな」
笑いのおさまってきた千昭が、前に座っている功介に目で話しかける。
「えー!? そういう時はその前に起こしてよー!」
「面白かったんだよ、どこぞのおバカさんが」
ニヤニヤと意地悪に笑う千昭。
功介も功介でフォローせずにすましたように笑って。
あたしはムゥッと脹れてプイと横を向いた。
「北海道??」
帰り道。
図書室に寄って勉強していくという功介と別れ、
ホームルームで先生が話していたことを千昭に尋ねつつ、あたしと千昭は二人並んで帰った。
「そ。北海道。札幌行って函館から帰るんだと」
「北海道かー。海外が良かったな〜」
「バーカ。行っても現地の言葉話せねぇだろ」
「でも、ちょっと憧れない? 韓国とか上海とか」
「べつに」
つまんなそうな答えが返ってきた。
「張り合いないなぁ」
「興味ねーもんは仕方ねーだろ」
「ちぇ」
空を見上げた。風も強くて、今にも降り出しそうな空になっている。
「千昭さ、現文ちゃんと出来たの?」
「…かねぇ?」
あたしの声と千昭のボソボソ喋る声が重なった。
何かと思って千昭の顔を見上げた。
「函館、一緒にまわらねぇ?」
ちょっと恥ずかしそうで言いづらそうに視線を宙に逸らす。
「改めて言わなくても、そのつもりだったよ」
「え?! マジ?」
驚いて千昭がパッとこっちを向く。
「うん、功介とあたしと千昭で」
「……」
「え? 違うの?」
千昭は、頭を抱えて俯いて姿勢悪く大きく溜め息をついた。
「あのな、真琴。
お前の、仲間思いのところはイイところだと思うぜ」
「何よ、急に」
「でもなぁ、察しろよ」
ゆっくりと顔をあげてあたしの方を見た。
少し拗ねてるようなそんな顔。
あたしも千昭も歩みが止まった。
「……もしかして、二人?」
おずおずと尋ねたあたしに千昭はコクリと頷いた。
「イヤか?」
千昭の駄目押し。
あたしは視線を踊らせた。
嬉しくて言葉がみつからない。
腕に水が落ちて来た感覚で、雨が降ってきたことに気付く。
「雨だ」
空を見上げると、弱くはない雨足。
「やべ。俺、カサ持ってねぇ」
「準備悪いわねー。天気で午後から雨だって言ってたじゃない」
「見てねーもん」
あたしはバックから赤い折畳み傘を難なく出して広げた。
「貸せ」
「うん」
あたしの手から千昭が傘を譲り受ける。
あたしより背の高い千昭が持って、あたしは濡れないように寄り添った。
それは千昭が転校してきてから何度も行われた行為。
けど、何だか少し照れくさい。
「んで?」
あたしと千昭は歩き出して、ちょっとしてボツと千昭が口にした。
「え?」
視線をやっても千昭は前を向いたままだ。
「さっきの、返答」
「……イヤじゃない」
「そっか」
安堵したような千昭の吐息。
「第一さー、気付くもんだろうが」
気分を切り替えたように明るい声があたしを向く。
「気付かなかったもん」
「改めて言うなんて変だって気付けよ、ド・ン・カ・ン」
「どーせ、あたしは鈍感ですー。そんなこと言うなら傘に入れてあげない」
「入れろよ」
「ヤダ。返して」
あたしは傘を取り上げようとする。
けれど千昭は逃れようと抵抗する。
傘の攻防。
あたしが傘の柄を掴んだ途端。
その上からあたしの手ごと千昭が握り締めた。
「バカ言ってねぇで帰るぞ」
だからって何であたしの手も巻き添えなのよと思ってても、口から言葉が出ない。
「お前、今日俺にミニゲームの攻略してほしいんじゃねぇのか」
「あ、そうだった!」
「忘れてただろ」
「アハハハ……」
思わずカラ笑い。
完璧忘れてたよ、あたし。
ゲームの中で攻略できないミニゲームが有って千昭に泣きついたんだった。
当日やるつもりだった千昭とあたしに、功介がテスト前だと止めに入って、
テストが明ける今日にしたんだった。
「んじゃ、ウチに行こう!」
「手、このままでいいか」
雨の音に重なって、短く静かな言葉。
千昭は少し強くあたしの手を包み込んだ。
「イヤって言ったら離してくれるの?」
「あー…、イヤ離さねー」
「なら意味ないじゃん」
「聞きたかったんだよ」
「別にいいけど」
「なら、真琴こそ聞くなよ」
「聞いてみたかったんだもん」
テンポよく続けて、一旦静かになる。
あたしと千昭は目を合わせて笑い出した。
「修学旅行、楽しみだね!」
「そうだな、美味いモン食えるだろうしな」
「海の幸でしょ、デザートでしょ、色々食べにいこうよ」
「食い物だけかよ」
「えーダメ?」
「見にいくとこ行かねーと後で作文に困るぞ」
「あ、それはイヤ」
「函館は見るとこあるしな」
雨が強く降っている。
水溜りも出来た。
あの時、別れたこの場所も思い出となってこれからも色んな記憶が積み重なってく。
千昭は帰ってしまうかもしれないけど、そんなことよりも。
この何気なく話す会話が凄く楽しい。
「楽しもうな、真琴」
「もちろんよ」
晴れてなくてもいい。
千昭が傍に居てくれれば、それでいい。
あたしは千昭と視線を交わして笑顔になった。
映画では野球ばかりやってたけど、
フツーにゲームとかもたまに楽しんでるんじゃないかなと。
主にゲーセン系とかアクション系とか大作RPGとか。
でも野球がメインだから、余りしない、みたいな。
あの青臭い青春(?)ぽさが出てればいいなと(* ̄△ ̄*)
修学旅行の場所は特に意味はなく、私の行ったことのあるところで(笑)
京都にしようかなとも思ったんですが(私の高校がそうだった)
詳しくないので止めました。SSで歩かせる時に私が困る!(笑)
かと言って詳しい東北は千昭たちに可哀相なので止めました。
二人で歩くにしても情緒がねえ…!
函館は3度行ったので、条件に合致し選択。
地元の某高校が同じホテルに泊まってたといういわくつき(笑)