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SS投稿〜曲がり角



どうして右へ行けなかったのだろう

あの曲がり角を曲がれたら、今も一緒にいれたかもしれないのに

告白をなかったことにしたくて。
タイムリープして分かれ道に戻ってきたあたしが最初に聞いた声。

「後で付き合っときゃ良かったって、泣いても遅えぞー」

明るい髪の男の子が、ちょっと冷やかすように言ったのを無視して。
あたしは一人で帰った。
…左の道から。

「ほんと馬鹿だよねえ…ははは」

あの頃の私はまだ幼くて。
はじめての初恋が恋であることすら気付かず。
ちゃんと人の想いを聞いてあげられる余裕がなくて。

好き、って何かよくわからなかった。

三人でいられることが、大切で楽しくて。
ずっと楽しいままいられたらそれで良かった。
大切にしすぎて変わることを恐れて

だから、一番大切なものをなくしてしまった。

「なあ、俺と付き合わねえ?」

告白されてただただ、びっくりした。

(心の準備が出来てたら、きっと素直に嬉しかったんだけどな。
アイツはタイミングが悪いのよ!)

先にきた驚きが大きすぎて、確かにあった喜びが紛れてしまったのだ。
自分の中に確かにあった気持ち。
ユリと千昭が付き合ったとき、あんなにムカムカしたのは嫉妬したから。
魔女おばさんが何度も「付き合っちゃえば」って言ってくれてたのも、
人の心をもてあそぶわけじゃなくて、おばさんは知ってたんだ。

タイムリープが使えても、取り返しのつかないことがあるって。

(まさかおばさんも経験者だとは思ってなかったけど)

さすが魔女。
千昭が未来に帰ってから、あたしはおばさんに全部ぶちまけた。
おばさんは黙って話を聞いてくれて、あたしは思いきり泣いてしまった。
泣きやんだあたしに、おばさんが話してくれたのはラベンダー色したとっておきの昔話。
それを聞いてもう一度泣いた。

どんなに時をこえても変わらない想いがあるって教えてくれた人。

会えて良かった。 絶対に一生忘れない。

ちょっと長い前髪を払う仕草がかっこ良かった。
「ばーか」って言われるのもムカつくけど、ほんとは嫌いじゃなかった。
良く耳に残る声が、時々びっくりするくらいあまったるくなることも知った。
三人で野球した。

(好きだったよ。千昭とする野球がじゃなくて、千昭とするから何でも好きだったよ)

走り続けていればまた会える気がして。

一日一日を一生懸命生きるようになった。

胸をしめつける痛みは別れてからも大きくなっていくみたい。

(ねえ。超特急で走って行くから。 ちゃんとあたしのたどり着く先で待っててね)

(今も、すきだよ)

「ばーか」

曲がれなかった曲がり角のその先で、
記憶の中ずっと輝き続ける笑顔がちょっと照れたように笑った。



書いた方:絶様「青い嘘